こんにちは。心理士の「ゆう」です。
この記事では,
少年法改正における原則逆送の範囲の拡大
について詳しく説明していきます。
少年による重大事件が起きると,加害少年について「少年法で守られるのか!?」「少年法は不要だ!」などと意見が飛び交うことが少なくありません。
しかし,従来から重大な事件を起こした少年について,審判の結果によっては大人と同じ裁判を受けることがあり,事件の内容によっては原則大人と同じ裁判を受けることになる制度もあります。
このことを「原則逆送」と言います。
その「原則逆送」について,2022年の少年法の一部改正により,その範囲が拡大されて,以前よりも大人と同じ裁判を受ける少年が増えることになりそうです。
そこで,今回は,
- 原則逆送について詳しく知りたい!
- 原則逆送の適用範囲はどのように変わるの?
- 原則逆送の適用範囲の広がりについて知りたい!
といった疑問や悩みに答えていきます。
子育て中の大部分の方にとって少年法は余り身近な法律ではありませんが,18歳19歳の子どもの問題行動に悩んでいる方は,いざというときのための知識として身に付けておきましょう。
なお,2022年の少年法改正の概要については,次の記事をご覧ください。
原則逆送とは
「原則逆送」は「検察官送致」の要件の一つですので、①「検察官送致」,②「原則逆送」の順で説明していきます。
検察官送致
まずは,検察官送致について説明していきます。
少年法は,非行に及んだ少年に対して,性格の矯正や環境の調整に関する「保護処分」を行うことにより,早期の改善更生を図ることを目的としています。
「保護処分」の種類には,「少年院送致」や「保護観察」などがあります。
ただし,重大な事件を起こした少年については,刑事処分(大人と同じ裁判)を受けさせることで,自分の責任を自覚することによって改善更生を図らせるといった処分もあります。
それを「検察官送致」と言います。
家庭裁判所は,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,決定をもって,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
少年法第20条第1項
家庭裁判所が「検察官送致」の決定をすると,その少年の事件は検察官に送致され,その後大人と同様に裁判を受けることになり,最終的には「懲役」とか「禁錮」などが言い渡され,刑務所に入ることもあります。
この「検察官送致」のことを,「検送」とか「逆送」と言います。
原則逆送
次に,原則逆送についてです。
これは,故意の犯罪によって人を死亡させた行為について,犯行時に16歳を超えていた場合は,原則検察官送致にするといった制度です。
家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては,同項(第20条第1項)の決定をしなければならない。
少年法第20条第1項前段
故意の犯罪によって人を死亡させる行為は,自分の犯罪行為を実現するために何事にも代えがたい人の命を奪うという点で,反社会性,反倫理性の高い行為です。
そのため,このような罪を犯した16歳以上の少年は,刑事処分の対象となることが原則的な取り扱いとされています。
しかし,あくまでも「原則」であって,検察官送致にならない例外もあります。
ただし,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りではない。
少年法第20条第1項後段
例えばですが,17歳の女子少年が,妊娠したことを誰にも言わずに時間が経ち,いざ出産してきた子をその場で死なせてしまったような場合は,様々な点を考慮した上で,検察官送致にしないこともあります。
ただし、検察官送致にならなかった場合でも、「少年院送致」となる場合がほとんどです。
原則逆送の対象となる適用範囲の変更
では,2022年の少年法の改正で,「原則逆送」の範囲がどのように変わるのか説明していきます。
年齢別に見ていきましょう。
16歳17歳の原則逆送
従来から,原則逆送の対象者は,16歳以上20歳未満となっていました。
今回の改正では,16歳17歳の少年についての変更はありません。
つまり,16歳17歳の少年については,故意の犯罪で人を死亡させた場合についてのみ「原則逆送」が適応されます。
18歳19歳の原則逆送
次に,18歳19歳の「特定少年」については,「原則逆送」の範囲が拡大されます。
「特定少年」については,次の記事を参考にしてください。
特定少年において,少年法第62条第2項第1号と第2号に該当する場合に,原則逆送となります。
1 故意の犯罪行為により被害者を死亡された罪の事件であつて,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの
2 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて,その罪を犯すとき特定少年に係るもの
少年法第62条第2項第1号及び同第2号
簡単に言い直すと,特定少年については,
- 犯行時16歳以上で故意に人を死亡させたとき
- 犯行時18歳以上で懲役又は禁錮短期1年以上の罪を犯したとき
のどちらかの場合に原則逆送となります。
①は,16歳17歳と変わりません。
②が,少年法改正における原則逆送の適用範囲の広がりのポイントになります。
②について詳しく見ていきましょう。
原則逆送の適用範囲の広がり
先ほど見たとおり,特定少年においては,犯行時18歳以上のときに,懲役又は禁錮短期1年以上の罪を犯したときに,原則逆送となります。
この「懲役又は禁錮短期1年以上の罪」について確認していきましょう。
懲役又は禁錮における刑期の長さについては,刑法等で事件名別に定められています。
具体的には,次のような事件名が該当することになります。
- 現住建造物等放火罪(刑法第108条)
- 強制性交等罪(刑法第177条)
- 強盗罪(刑法第236条)
「強制性交等罪」とは,以前「強姦罪」と呼ばれていた事件名です。
こうした事件を単独で実行すれば当然原則逆送が適用されます。
それだけなく,共犯がいる場合において「教唆犯」や「幇助犯」や「未遂」の場合であっても,原則逆送が適用されることとなります。
- 教唆犯:犯罪の実行を決意していない方をそそのかして,犯罪の実行を決意させるもの(刑法第61条)
- 幇助犯:実行行為以外の方法で正犯者の実行行為を容易にさせること(刑法62条1項)
- 未 遂:犯罪の実行に着手して,これを遂げないもの(刑法43条)
具体的な事例としては次のような場合に原則逆送が適用されると考えられます。
犯行時18歳の少年AとBについて,Aが路上を歩く高齢者からかばんをひったくり,Bが運転する自動車に乗ってその場を離れた。
この事件が「強盗」の罪と認定されれば,犯行時18歳以上かつ懲役又は禁錮短期1年以上の罪となるため,原則逆送が適用されます。
また,Aが主犯で,Bが共犯であるとしても,どちらも検察官送致の対象となりえます。
ただ,特定少年の原則逆送についても,例外規定はあるため,必ずしもすべての少年が「逆送」されるわけではありません。
まとめ
今回の記事では,少年法改正における原則逆送の範囲の拡大について解説してきました。
今回の一部改正により,18歳19歳の「特定少年」の原則逆送の範囲が拡大され,強盗や強制性交等などの事件であっても,検察官送致処分になるなど,厳罰化としての意味合いもあります。
こうした知識があると,ニュースで話題になるような事件についても見方が変わりますので,今後も学びを広げていただけると嬉しいです。
ご相談やご質問がある場合は、お気軽にお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました。